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過剰な返礼品は誰のため?泉佐野市のしたたかな戦略にあった裏事情

2008年度から始まったふるさと納税制度の利用が拡大し始めたのは、ワンストップ特例制度などが導入された2015年頃にさかのぼる。その後、過熱する返礼品競争を受けて、2019年6月1日に施行された新制度のもとでは「返礼品は寄附額の3割以下、地場産品に限る」というルールが定められた。そして4市町が「制度の趣旨に反し、著しく多額の寄附を集めた」自治体として除外された。

「除外自治体は、今」のコーナーでは、マスコミ等では報道されていないその4市町の取り組みや想い、現状を紹介する。連載1回目に取り上げるのは、最高裁で国に逆転勝訴した大阪府泉佐野市。Amazonギフト券付きの返礼品が手に入る「100億円還元キャンペーン」で注目を集めたこともあり、“身勝手な寄附金集めに走る悪者”と世間を騒がせた。果たして、泉佐野市は身勝手な悪者だったのか?キーマンに話を聞いた。

行政サービスの遅れを解消

「市の発展の切り札として期待された関西国際空港は鳴かず飛ばずで、まちの財政はジリ貧状態。市役所で働いている人間ですら、他自治体に引っ越していった暗黒の時代があったんです」

10〜20年前の泉佐野市についてそう振り返るのは、市のふるさと納税チームの牽引役である阪上博則だ。

バブル崩壊の煽りを受け、対岸にある関西国際空港関連の投資が「とらぬ狸の皮算用」となり、多額の負債を抱えた泉佐野市が、財政再建団体(民間企業の倒産に相当)に転落する寸前に陥ったのは2000年頃のことだ。以来、人件費の削減を主とした行政改革の一環として、数年に一度、国民健康保険料や上下水道料金、各種施設の使用料といった公共料金の見直し(値上げ)を繰り返してきた。

「平成の大合併が進められていた2000年代前半、財政面に不安を抱える泉南地域の5市町が合併し、泉佐野市は新設される『南泉州市』の核になるはずでしたが、『貧乏な泉佐野市なんかと合併したくない』という反対派の声もあり、破談に終わってしまったんです」

財政が逼迫していたために、泉佐野市の行政サービスは近隣自治体よりも遅れていた。たとえば、人口約10万人の地方都市でありながら公民館は2つしかなく、「医療費助成」の対象を0歳〜小中学生までとしている近隣自治体に対して、泉佐野市は就学前までしかなかったのだ(※ 2017年度より中学卒業までに引き上げ)。
そんな泉佐野市にとって、「少なくとも近隣自治体並みに市民サービスを向上させていく」ために税外収入を得られるふるさと納税は欠かせないツールになったのだ。

ふるさと納税で泉佐野市に集まった寄附金は計約850億円。そこから返礼品の調達費等の経費を差し引いた約250億円が市の財源として活用できる原資となった。
16の使い道から選択できる泉佐野市のふるさと納税のうち、寄附金が特に多く集まってきたのが、「まなびプロジェクト」「未来を創るプロジェクト」である。よく知られているところでは、2016年まではひとつもなかった小中学校のプールの建設が挙げられる。ふるさと納税のおかげで、2020年度時点では全18校のうち、7つの小学校と3つの中学校でプールが整備されている。

また、老朽化した児童用の机を身長に合わせて高さ調整ができる可動式机に替えたほか、小学校3年生から6年生においても「学級定員35人以下」になるような教職員の配置を推進するなど、教育環境の向上を図ってきた。

地方創生に欠かせないふるさと納税制度

自治体の自助努力により、まちの魅力を高められるのがふるさと納税制度の魅力だが、制度設計の甘さを問う声も多く、賛否両論が分かれている。返礼品競争が象徴する制度の歪みを批判する人々からは「いっそ返礼品をなくしてしまえ」という声も出ているが、阪上は反論する。

「返礼品は地方創生には欠かせない大切なものだから、なくしちゃいけないんです。返礼品がなければ、地方の消費はふるわず、経済も上向かないでしょう。2019年度の寄附金約5000億円のうち、3割が返礼品の購入に充てられているとすれば、ざっと見積もって1500億円の経済効果が生まれている。こんなすばらしい消費喚起策は他にないと思うんです」

全国の黒毛和牛から鹿児島県産うなぎ、栃木県産いちごの「とちおとめ」といった他地域の特産品のみならず、サントリーのプレミアムモルツやエリエールのトイレットペーパーまで。地元の小売業者を通じてそろえた1000品目以上の返礼品は、「まるでカタログショッピングだ」と総務省から批判された。

「制度のもとでは、誰もが平等であるはずです。地場産品を扱う事業者だけが制度に参加できて、そういうものを扱っていない小売の事業者が参加できないのは不公平。ふるさと納税の認知度が高まり、流通チャネルとして大きくなってきている以上、誰でも参加できるものであるべきだと思っていました」

寄附という行為をどう捉えるかが、賛成派と反対派を分ける大きな要因となっている。
「モノをもらうために寄附をすることは卑しいと否定的に捉えている方もいますが、モノから入るからこそ地方に消費が生まれ、地方が潤うんです。そのために寄附者は協力していると考えれば、(実質的に)タダでもらうことに対して、後ろめたさを感じる必要はまったくない。返礼品の調達などにかかる費用は無駄遣いだという認識についても強く否定したいですね」

返礼品からまちづくりに参加

新しいふるさと納税の活用法として近年注目を集めているのが、ふるさと納税ポータルサイトの本家「ふるさとチョイス」が進めているガバメントクラウドファンディング(GCF)だ。

沖縄の首里城再建やコロナの感染予防対策など、「自治体が抱える問題解決のため、ふるさと納税の寄付金の「使い道」をより具体的にプロジェクト化し、そのプロジェクトに共感した方から寄付を募る仕組み 」である。

「使い道やストーリーを切り口とするGCFプロジェクトは、理想的なふるさと納税の活用法だと思います。でも、返礼品を切り口にする場合と比べると、集まる寄附金に大きな差があるのが現実なんです」(阪上)

勝訴後、2020年7月に制度復帰した泉佐野市は、新しい地場産品の育成を支援するプロジェクト「#ふるさと納税3.0」をリリースした。返礼品で寄附を集める「1.0」と返礼品を用いずに寄附を募る「2.0」(災害支援等)を組み合わせたハイブリット型だという。

「返礼品をもらうことが地域のために役立っているんだ、自分もまちづくりに参加しているんだと寄附者の方に感じてもらえるような社会的意義のある取り組みにしたいですね。それは、裁判などで世間をお騒がせし、返礼品批判を強めてしまった私たちの責任でもある。

その商品が一般市場にも流通するようになったとき、昔から知ってたんやで、と寄附者の方に自慢していただけるような商品・サービスづくりを僕らはサポートしていきたいです。これまで、ふるさと納税で人気が出たものを一般市場に出してうまくいったためしはあまりないので、成功例をつくりたいと思っています」(阪上)
法改正により地場産品規制が加わったため、泉佐野市では返礼品の数も集まる寄附金も格段に減った。総務省に言いたいことは山ほどあるが、泉佐野市のふるさと納税チームは「今できること」に向き合っている。

返礼品として人気が集まる地場産品がないなら作り出せばいい−―。ふるさと納税制度を通じた地方全体の発展を見据えながら、アイデアや創意工夫で道を拓こうとする“悪者”が、他自治体の模範となる日が楽しみだ。

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